番外編 野良猫3
すっかり大人のママになっていたあのクロちゃんに頼もしさを感じ、日々の楽しみが増えた。
洗車する私から5mも離れていない場所でゴロンと横になり、その周りを仔猫が楽しそうに飛び跳ねる。
なんとも癒されるではないか。
とある金曜日の夕方、茶トラの家族に災難❓があった。
寝ぐらにしているお宅の子供が、茶トラファミリーの存在に気付いたのだ。
ネコがいる‼️
ネコがいるよー‼️
きてきてー‼️
と家族を呼んだ。
アチャー………
いつかは気付くと思ったが、ちょっと早かった。
妻と2人でどうなることかとハラハラしている。
子供とママが捕まえようと手を伸ばすが、仔猫たちは巧みに身を交わして物置の下に逃げ込む。
しばらくガサゴソドタバタしていたが、人間親子が諦めて家に戻った。
仔猫たちは時折ミンミンと声を上げているが、たまに物置の下から鼻っ面を覗かせるだけでそこから出てくることはなかった。
その夜中
ミンミン…ニャーオン…ミンミン…ニャーオン
と、茶トラ親子の声がしきりに聞こえたが、翌朝から彼らの姿を見ることはなかった。
土曜日の夕方、茶トラ親子が住み着いていた物置のお宅の子供がネコちゃん用のフードをお皿に二ヶ所置いていた。
これは興味深い。
まったく姿の見えなくなったあの場所。
食べにくるのか…
翌朝、妻が興奮気味に私を呼んだ。
なんと、2枚のお皿の上はキレイに何もなくなっていたのだ。
ただし、どこの誰が食べたのかはわからないが、茶トラ本人(猫)は度々姿を見かけるようになった。
相変わらず燻銀の睨みを利かせやがる。
私の癒しはクロちゃん親子のみになった。
妻に言わせると『たまに裏でも見掛ける』とのことであったが、私が車をいじっていると、必ず近くで親子仲良く遊んでいる。
妻は仔猫を飼いたいと言う。
私はクロちゃん親子を引き離したくないと思った。
私たち夫婦は、仔猫に命の危険が及んだら保護しようという結論になった。
数日後、帰宅中の電車の中で妻からLINEが入った。
今朝、物置のお宅が捕獲器を仕掛けていたが、夕方にクロちゃんの仔猫がそこに捕獲されていたというのだ。
しかも、妻が私にLINEをしているうちに、捕獲器は無くなりどうなったかわからないというのだ。
妻は保健所に連れて行かれる心配をしているが、茶トラ親子への対応を見る限り飼うために捕獲したように思える。
クロちゃんは仔猫を呼び続けている。
ミャーオン、ミャーオン…
気のせいかとても悲しげに聞こえる。
捕獲器のあった場所でも呼び続けている。
自分の子供が突然の罠にはまり、何処かへ連れ去られた。
親としてはどれだけ辛く悲しいだろう。
野良猫にとって、何が幸せなのか。
仔猫はやがて新しい人間家族になつき、幸せになるだろう。
親猫も生きていくために、いつまでも悲しんではいられないだろう。
動物たちにとって何が幸せなのか。
ミャーオン…ミャーオン
今夜もクロちゃんは仔猫を呼び続けている。